■ 紙パルプ従事者の為の貿易実務講座 ① 貿易法務(条約)
貿易に関わる各種条約と法令
世界では国によって異なる法律が制定され、また国外の企業を一方の法律で罰することはできません。それぞれの国が異なる常識と商習慣によって取引を行っていては国際商秩序が維持できない為、他国間でルールーの取り決めを行っています。そのルールを条約と言います。条約には罰則がない為、その条約に基づき各国で違反者への罰則など法律を制定しています。
貿易に関わる主な国際条約
(Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal)
先進国からの廃棄物が途上国に輸出され、環境汚染が生じるという問題に対処するために採択された。有害物質を含む廃棄物や再生資源などの貨物の輸出入を行う場合に、「特定有害廃棄物等」や「廃棄物」に該当する場合には、関税法の手続きに加え、「外国為替及び外国貿易法」に基づく経済産業大臣の承認、環境大臣による確認等を受ける必要がある。古紙はもっぱら物でバーゼル法の対象とはならないが、廃プラスチック等リサイクル目的の廃棄物原料を輸出する場合、環境省へ事前相談を行い、非該当証明を税関に提出する必要がある。尚、環境省への事前相談は輸出申告の際に税関より求められるが、法的根拠はなく、輸出許認可の権限はあくまで税関にある。
(Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer)
オゾン層を破壊する特定フロン、ハロン、四塩化炭素などの生産、消費、貿易を規制する条約。
先進国では1996年までに全廃(開発途上国は2015年まで)する事が求められ、1987年にカナダで採択、1989年発効。毎年締約国会議が開かれ、段階的に規制強化が図られている。2016年のキガリ改定により、代替フロンも対象となり先進国は2020年までに全廃(開発途上国は原則的に2030年まで)することが決定した。代替えフロンはオゾン層を破壊する塩素を含まないが、温室効果ガスであることから使用削減が条約の内容に盛り込まれた。
日本では1988年に、「オゾン層保護法」を制定し、フロン類の生産および輸入の規制を行っている。
冷蔵庫やエアコンなど、内部に規制ガスが注入されているものも規制の対象となるため、ガスそのものだけでなく、リサイクル目的で家電などを輸出する場合にも注意が必要となる。
(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、英文の頭文字をとってCITES(サイテス)ともいわれる。1973年(昭和48年)にアメリカのワシントンで採択された。
野生動植物の商業目的の乱獲による絶滅を防ぐため、保護が必要と考えられる種について附属書にリストアップし、絶滅のおそれの程度に応じて附属書の内容を三区分(附属書I~III)に分類し、国際取引の規制を行っている。
古着に革製品が混ざっていたり、人形の詰め物に対象植物が使用されている場合、この法律の規制対象となる事もある。
(Wassenaar Arrangement)
通常兵器及び機微な関連汎用品・技術の移転に関する透明性の増大及びより責任ある管理を実現し、それらの過度の蓄積を防止することを目的として設立された。正式名称は「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント」。冷戦の終結を機に全身のココム(対共産圏輸出統制委員会:旧共産圏諸国に対する戦略物資統制のための枠組み)参加国を中心に協議が開始され、1996年に採択された。輸出規制は独裁国家や反社会的組織、テロリストなども対象となり、輸出管理対象品目リストが定められている。
大量破壊兵器及び通常兵器の開発等に使われる可能性のある貨物の輸出や、技術の提供行為などを行う際、経済産業大臣への届け出およびその許可を受けることを義務付けた制度。外国為替及び外国貿易法(日本法)を根拠として2002年4月に導入された。木材・食料品を除くほぼすべてが規制の対象となっており、指定された26カ国※(「輸出令別表3」の地域:米、カナダ、EU諸国等)を除いた地域への貨物の輸出や技術の提供が対象。輸出規制の対象国をレベルごとにA・B・Cとグループ分けされ、原則届け出に留まるグループA国をホワイト国と呼ぶ。日韓の関係悪化から日本政府が2019年に韓国をホワイト国から除外した事が話題となった。アルミ合金など製造に特殊な技術が必要な素材や、故障したBluerayプレイヤーに内蔵されているレーザー機器など思わぬ製品が規制対象となる為、注意が必要。紙製品は基本対象外。
化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を全面的に禁止するとともに、すでに存在する化学兵器および化学兵器生産施設を条約発効ののち原則として10年以内にすべて廃棄すること、一定の設備を持つ化学産業施設に対する検証措置をおこなうこと等を定めている。また、1925年1月1日以降に他国領域内に同意なく遺棄した化学兵器についても廃棄処理を行うこととされており、遺棄国に処分に必要な費用や技術の提供を義務付けている。1997年公布
米国の技術漏洩、兵器転用を防ぐために、米国産の製品あるいは米国産の機器・機械・部品等を組み込んで製造された製品を第三国に輸出する場合、米国輸出管理規則の対象となり米国商務省の許可が必要となる。物品(Commodities :服、建築資材、回路基盤、自動車部品など)、ソフトウェア(Software)、技術(Technology)も含まれる。輸出許可の必要の有無は、対象製品、輸出国、輸出先(輸入者)、輸出用途により異なり、中国を含む殆どの国は米国産部品が25%以上含まれている事が条件となる。イラン、北朝鮮、シリア、スーダン及びキューバは10%以上。例えば日本で購入したIphoneを無許可で中国へ転売する事は違法となる。
「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質の、製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約。1995年に国連環境計画(UNEP)政府間会合で採択され、(1)毒性(2)難分解性(3)生物蓄積性(4)長距離移動性を基準に分類されており、製造・使用、輸出入の原則禁止(附属書A)を目指す。
(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods: CISG)
国境を越えて行われる物品の売買に関して契約や当事者の権利義務の基本的な原則を定めた国際条約で、国際連合国際商取引法委員会が起草し、1980年に採択、1988年に発効。貿易取引の際の契約の成立や契約違反時の救済(損害賠償や時効)などを定め、二国間の法律の違いなどによる紛争を回避するために作られた国際条約(ルール)。当事者間の契約によってウィーン売買条約を採用しないことも自由で、一方の法律や法廷を利用する事を契約書に記載することもできる。
2ヶ国以上の国・地域が関税、輸入割当など貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃・削減する協定。締結国・地域間の自由貿易および投資拡大を目的として関税/非関税障壁を取り払う事としており、適用には特定原産地証明等の書類の提出が求められる。
自由貿易協定(FTA)のような関税撤廃や非関税障壁の引き下げなどの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約。