相次ぐ原紙値上げ 環境投資を価格に転嫁せざるを得ないワケ(持論)

  ■ 相次ぐ原紙値上げ 環境投資を価格に転嫁せざるを得ないワケ(持論)

2021年12月25日

 世界中で地球温暖化対策や持続可能な開発など、環境に対する意識が強くなっている。CO2排出削減は今や国家レベルの課題となっており、一企業も国の定めた目標を達成すべく厳格な削減計画を求められる事となった。 
特に消費者商品は企業イメージが売上に直接的に影響する為、積極的に高いCO2g排出削減目標を設定し、その使用する原材料に対しても排出削減を強く要求している。 素材メーカーは納入先から求められるCO2削減要求をクリアしなければ取引の継続すら怪しい時代となった。

自動車トップのトヨタは35年までに世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする目標を発表し、直接取引する主要部品メーカーに対しても、21年のCO2排出量を前年比3%減らすよう求めた。 トヨタに限らず大手製造メーカーはその多くが供給元や下請け企業に対し、50年のカーボンニュートラル達成を求め、サプライチェーン全体での脱炭素を達成する目標を掲げている。

CO2排出削減目標を掲げているのは製造業だけではない。大手IT企業も同様だ。 
アップルは、2030年までにカーボンニュートラルの実現を宣言している。勿論自社だけではなく、世界中の部品を製造する取引先を含むサプライチェーン全体で、アップル製品の製造に使用する電力を100パーセント再生可能エネルギーに振り替えていくという。 
フェイスブックは、30年までにカーボンニュートラルを実現する目標を発表。取引のあるサプライヤーからの排出量や、従業員の通勤や出張などの他の要因を含め全体で取り組むとしている。

GAFAを始めその他大手IT企業もCO2排出削減に対する高い目標を設定している。

環境に対する意識が高まり、世界中の企業がCO2排出削減に対して積極的な姿勢を見せている事は非常にいいことだと思う。 しかし工程や製造設備の改造に伴う膨大なコストを誰が負担するのか。

製造業に於いては、末端消費者商品を製造する企業は大手企業で、素材や部品を供給する下請け企業は中小零細企業であることが多い。 普段から過酷なコスト削減要求や、価格競争にさらされているのが実情だ。そんな中、顧客であり大手企業でもある納入先からCO2排出削減を求められれば、正論と世論の後押しもある中で断る事はできない。 その上コストの増加分をを満額価格に転嫁する事は難しいのではないだろうか。 

製造業でなくてもGAFAのような巨大IT企業を相手にする場合はさらに厳しい。通販やIT企業はITインフラを提供する事で非常に強い立場に立っている。広告宣伝費や仲介手数料が彼らの主な収入源だが、Web上のインフラは独占的な市場になることが多く、これらの企業と取引する場合無理な競争を強いられることも珍しくない。 さらに製造業ではない彼らのCO2排出削減目標は基本的に下請け企業(サプライチェーン)への削減依頼が主軸となっており、全くコストをかけずにCO2排出削減を達成する事が可能となるのだ。

 紙パ業界のCO2排出削減

本来段ボールはリサイクル率が高く、SDGSの優等生と言われてきた。一方で古紙の回収や紙の製造工程で多くのCO2を排出しているのも事実だ。 

我々段ボール業界は、通販や自動車、アパレル、飲料など消費者商品を含め幅広い業界に商品を納品している。 当然ながら、それらの企業からCO2排出削減を強く求められており、他業界同様その責任を果たさなければならない。

しかし、段ボール会社や製紙企業から先の物流業者や古紙回収業者に高いCO2排出削減目標を課すことは非常に困難だ。 運送会社や古紙回収業者は従業員数人から数十人規模の中小零細企業も多く、また排出されるCO2の殆どが運送に由来するものだ。 EVのパッカー車もなければ働き方改革による24年問題も重なり、CO2排出削減に回せる資金と余裕はない。さらに古紙は発生物で回収量をコントロールできないだけでなく、相場によって価格が変動し、長期にわたって安定的な収益と稼働計画を立てる事は難しい。 CO2対策を求められても全ての企業で実現できる話ではないのが実情だ。

段ボール最大手のレンゴー社は2030年のCO2排出削減目標を2013年比46%削減するとしている。ボイラーなどに投資し化石エネルギー使用率を下げることでCO2の排出量を削減するとしている。 王子ホールディングスは30年までに海外で20万ヘクタールの新規植林地を確保し、カーボンオフセットを進める方針だ。

製紙業界はサプライチェーンにその削減目標に対する協力依頼をする事は難しく、政府の掲げる目標と納入先からの排出削減依頼を直に受け止め自らの負担のみでCO2排出削減問題を達成せざるを得ない。

製紙会社の多くが過去最高益を出している上に、段原紙の在庫量も多い。 原燃料価格は上昇しているものの、3年前の値上げ要因となった古紙価格も当時より低い水準にある事から、今回の値上げや「値上げ幅」に対して多くの疑問符が投げかけられている事は事実だろう。 

日本の製紙企業と利害関係の少ない私が、今回の値上げ幅に対して意見を言う立場にはないが、CO2排出削減達成にかかる環境投資とそのコスト負担は、世の中全体の課題として末端消費者にも同様に負担していただきたいと考えている。 また日本が長らく苦しむデフレ問題にメスをいれる意味でも柔軟な対応と理解をお願いしたい。

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