パルプ価格の高騰と需要の変化 戦略変更の岐路に立つパルプメーカー

  ■ パルプ価格の高騰と需要の変化 戦略変更の岐路に立つパルプメーカー

021年3月24日

新型肺炎の流行によって川下産業が変化し、パルプ産業は需要の変化に対応すべく戦略を変更する必要性に直面している。 

新型肺炎の流行は紙業界にとって大きな転換点となった。 展示会や会合、販売促進活動が電子媒体に取って代わられ、印刷用紙や筆記用紙、新聞などの需要が激減した。

2019年の世界の木材パルプ市場は1,327憶㌦規模。化学パルプ(1憶4,800万㌧)が全体消費の77%を占め、二番目に使用量の多い機械パルプ(2,400万㌧)の約6倍の需要がある。またセミケミカルパルプは1,100万㌧で5.9%、三番目に需要が多い。 パルプ輸入量は2019年、6400万㌧で金額ベースは454億㌦で生産量の43%が国外へ輸出されている。 

新型肺炎が流行しだした20年3月はパルプの流通量は前年度比10%減少し、4月は30%、5月は60%に達した。パルプ使用量が減少した大きな要因は最もパルプ消費量の大きい印刷用紙の消費減によるものが大きい。 在宅ワークの増加により遠隔操作、クラウド技術が必須となり、新型肺炎の終息後も印刷用紙の消費量は元に戻らないだろう。

一方でオフィスや学校、飲食店での紙の需要が減少した事と対照的に、トイレットペーパーや紙ナプキンなどの家庭紙需要は拡大した。また包装業界は通信販売の消費拡大によって限界に近い稼働状態となっている。 各国の環境規制(脱プラ政策)により需要は増え、食品用途の高級板紙など包装資材はパルプの供給不足によって価格が高騰した。今後も包装資材市場は成長すると見られるが、パルプメーカーは需要の変化に対し市場戦略を変更する必要が出ている。

エリア別でみると19年の木材パルプの消費量は米国が5,100万㌧、中国が3,900万㌧、日本が1,000万㌧でこの上位3国が世界の52%を占めた。その他カナダ、スウェーデン、ロシア、フィンランド、インド、ブラジル、ドイツ、インドネシア、イタリアとフランスで31%を消費している。しかし、2012年から19年までの消費量の平均年間成長率は、インドが+6.2%、中国が+6.1%、ロシアが+4.1%と急拡大する一方先進国は緩やかな成長にとどまっている。 中国や途上国では経済の発展と都市の近代化、生活水準の向上により家庭紙の普及や通販の利用増加による包装資材の需要が拡大している。

また中国のパルプ輸入量は2,400万㌧となっており、世界の流通量の37%。金額ベースでは188億㌦で41%に達する。12年から19年の中国輸入量は平均+5.9%成長しており、消費量が拡大する中国は供給を輸入に頼っている現状がある。またインドは+9.4%、トルコは+6.5%、ポーランド+6.3%、スペイン+3.4% インドネシア+1.7% オランダ1.6%、米国1.5%の輸入量増加だった。一方ドイツ、日本、韓国の輸入量は横ばいとなっており、フランスは-2.0%と減少している。

気候や環境に対する取り組みが強化される一貫でEUやその他の地域に於いて環境に関する法律が見直され、米国もパリ協定に復帰した。 紙は環境に優しく、生体分解可能で再生可能な資源であり、国際的な政策面からも包装用途のパルプ消費量は安定的な成長をすると期待されている。

しかしEUの包装資材に関する規制によると、2030年までに紙・板紙の少なくとも85%がリサイクルされたものとなる事を目標に掲げている。19年時点では紙全体に含まれる古紙比率は49%に留まっており、パルプ使用比率は41%となっている。つまり今後紙のバリューチェーンの継続性が産業にとって重要な要素となり、古紙の利用を増加させエネルギー消費は削減しなければならない。

CO2削減の観点でみるとパルプの利用促進はその目標達成に寄与するが、再生可能(持続可能)という観点とEUの政策面からみるならば古紙の利用は欠かせない。古紙利用を促進し、再生可能エネルギー(太陽光や風力)発電設備に投資していく方向性になるのか。 

また、木材パルプの供給不足と価格高騰に竹や藁、サトウキビなど代替えパルプにも注目が集まっている。パルプ市場の安定的な成長には価格面と継続可能性が重要な課題となっている。未曾有の価格高騰にパルプ企業の収益は改善したが、将来戦略をどのように描いていくのかが気になるところだ。

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