■ ウクライナ情勢 黒海に閉じ込められた民間貨物船 乗組員の避難と本船の放棄も
2022年3月12日
ロシアのウクライナ侵攻によって多くの船会社がロシアへの貨物輸送とサービスを停止。 またウクライナ政府はロシアの侵攻後2月24日に同国への入出港を禁止している。
一方で戦争開始時にウクライナ近郊を航海していた船舶は海域からの離脱ができず、船員が閉じ込められたままになっている本船も多い。 25日には日本企業が所有するパナマ船籍の貨物船「ナムラ・クイーン」がロシアのミサイル攻撃を受け、フィリピン人乗組員1名が軽傷を負った。 またモルドバ船籍のケミカルタンカー「Millennial Spirit」やトルコ船籍のばら積み船「Yasa Jupiter」等も攻撃を受けており、ロシア軍の攻撃で損傷を受けた本船は3隻となっている。「Millennial Spirit」のロシア人乗組員2名は重症を負った。
ウクライナ沿岸を航行する船舶は砲撃を受ける危険性もあることから、多くの外航商船がウクライナ港湾にとどまり、稼働停止に追い込まれている。 日本大手船会社である日本郵船は同社が運航する貨物船でウクライナの港に停泊している本船は3隻。外国人乗組員含めて60名ほどが乗船しているが、港管理者からの出航許可が下りず退避ができない状態が続いている。 ロシア軍はウクライナの主要港であるオデッサやユズニーへの攻勢を強めており、乗組員の安全が懸念される。
フィリピン外務省は日本船主・船社の保有船2隻の乗組員も含むフィリピン人船員約200人を隣国のモルドバ、ルーマニア経由で脱出さる方向で調整している。 本船を放棄し従業員が非難する決断をした民間船もでており、国際海事機関(IMO) はウクライナの海域に閉じ込められている多くの船が安全に避難できる人道回廊を作ることを要求した。
英国の船価鑑定大手ベッセルズ・バリュー(VV)の船舶トラッキング情報によると、3月10日時点でウクライナ領海内にいる1万重量トン以上の商船は61隻にも及ぶ。
船員労働力調査機関(BIMCO)と国際海運会議所(ICS)によると、2021年時点で74,000隻以上運行している世界の商船の船員は189万人。 内198,123人(10.5%)がロシア人となっており、76,442人(4%)がウクライナ人となっている。両国は世界の船員の14.5%を占める。 ウクライナのゼレンスキー大統領は国民総動員令を発令しており、18歳から60歳の成人男性は出国を禁止されている。また国外に住むウクライナ男性の中には国を守るため帰国する者もいる。 さらに世界各国はロシアへの経済制裁を強めており、ロシア国民の入出国が制限された場合、船員が不足し世界の商船運航に支障がでる恐れがある。