プーチンがロシアへの経済制裁に動じないワケ 人民元決済で激安資源を輸入する中国

  ■ プーチンがロシアへの経済制裁に動じないワケ 人民元決済で激安資源を輸入する中国

2022年3月9日

欧米諸国を始め多くの国がロシアへ経済制裁と資金の凍結を行ったことでルーブルは暴落し、ロシア経済に大きなダメージを与えている。ロシアの金融機関はSWIFTから除外され対外貿易ができなくなった事でロシアの天然資源は破格でのオファーでも買手が付かない状態だ。 そんな中4日、石油大手シェル(英)がロシアから破格で原油を購入したことを発表した。欧州への資源安定供給の観点から購入を継続するとの判断だった。 しかし世界中からバッシングを受け、8日にはロシア事業からの完全撤退と政府の経済制裁に同調する方針に転じた。国際社会はロシアへ加担する行為に対し厳しい目を向けている。

しかし、すべての国がロシアへの経済制裁に同調しているわけではない。パキスタンのイムラン・カーン首相は、ロシアがウクライナへのミサイル攻撃を始めたわずか数時間後に小麦と天然ガスを輸入する契約を交わしている。 

また中国もロシアへの経済制裁には反対しており、また中国がロシアと取引することへのバッシングに対し中国の正当な権利や利益を阻害してはならないとけん制した。 ロシアにとって中国は輸出額の2割程度を占める重要な貿易相手国だ。 また中国はSWIFTの代替えともなりうる中国独自の金融システム「CIPS」を運営しており、ロシアの金融機関も参加している。 2014年のクリミア併合時の経済制裁によってロシアは対欧州への資源輸出とドル決済に依存する事に危機感を感じ、決済通貨をドルからユーロや人民元に切り替えを進めてきた。 中国・西アジアなど第二の資源販売先を模索しており、大量の資源を必要とし、人民元を基軸通貨にしたいという中国の野望はロシアとの利害が一致した形だった。 

その後、人民銀行とロシア中銀は1500億元(約2兆7400億円)規模の通貨スワップ協定を結んだため、取引を継続するための十分な資金流動性を持つこととなった。 ロシア中銀の直近データによれば、21年6月の時点でロシアの準備高の約13%(推定770億ドル=約8兆8700億円)が中国系資産となっている。こういった中国独自の金融システムと外貨資産に欧米諸国は手を出すことは一切できないため、経済制裁の効果が薄れてしまうのが現状となっている。

 ユーロ・人民元決済でロシアから資源を購入する中国 

中国のエージェントからロシアの木材パルプを破格で購入したとの連絡があった。代金の支払いはどうしたのかと聞くと、ユーロ建てで行ったという。以前よりロシアのパルプをユーロ建てで買う事は珍しくなく、制裁の対象外となっているロシア地方銀行もあるためSWIFT除外は殆ど影響がないという。 

ロシアは対中貿易に於いて、すでにドルに依存しない決済方法をとっていたのだ。 ロシアのドル離れは2018年に発動した米国対露追加経済制裁でルーブルは20%暴落し、ロシアは外貨準備の見直しをしなければならなくなった事が発端となった。 
ロシアは米国債を大量に売却し、2か月間に1000億ドルから149億ドルまで縮小、金、ユーロ、人民元に変更した。その結果46%を占めていたロシアのドル建て外貨準備高は22%に低下、ユーロが25%から32%、人民元が0.1%から14.7%へ急増する形となった。 また2018年以降、ロシアと中国の貿易決済通貨はドル離れが急激に進んでいた。 ロシアの対中国輸出においてドル決済は、2018年に75%を占めていたが、2019年第1四半期には46%を下回った。一方0.7%であったがユーロ決済は2019年には37.6%と急増し、ロシアから見た輸入決済の4分の1は人民元で決済が行われるようになった。

クリミア併合後、中国とロシアはエネルギー協力を急速に進め、ロシアは中国の石油輸入の約15%を占める最大の供給者となった。 2018年3月、中国は上海国際エネルギー取引センター(INE)で人民元建ての石油先物取引を開始。 わずか1年で330億バレルを取引し、ドバイを超えて、ニューヨークやロンドンに次ぐ第3の規模に成長している。また人民元香港市場では金先物取引市場が設立され、人民元は金との換金もできるようになっている。 人民元はドルに代わる実力を着実につけつつあり、すでに人民元決済が恒常化した中ロ貿易においてSWIFT除外による経済制裁は意味をなさない。

さらにイランやベネゼエラも経済制裁を回避するために人民元決済を受け入れており、中国はサウジアラビアにも人民元決済を持ちかけている。 人民元の台頭によって、もはや米ドル一強の時代は終わりつつあり、国際ルールに反した国家への効果的な経済制裁は難しくなっている。

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