余剰する古紙問題への日本製紙メーカーの取り組み

  ■ 余剰する古紙問題への日本製紙メーカーの取り組み

国内の古紙回収インフラ維持にとって国内古紙建値が維持されている事が唯一の救いではあるが、国内原紙の出荷状況も悪く各製紙メーカーは受け入れ数量をカット、古紙余剰問題は深刻化してきている。

栃木では行政入札をした業者が倒産し1億5千万円もの回収資源売払い金が回収不能になったことが新聞に記載されていた。九州では古紙入札の札入れに古紙問屋が1社も応札せず、古紙回収インフラの維持が困難になってきている事が行政にも認知され始めている。 

 回収コストを捻出できない販売単価に問題続出

古紙リサイクルシステム維持と古紙問屋の保護は日本だけではなく韓国や台湾でも話題となっており、古紙輸入国でもある両国では一定量国内古紙を優先的に使うように政府から努力義務が課されているという。日本でも大手製紙メーカーを始め各製紙メーカーは古紙購入価格の維持を継続しているが、基より2割は輸出しなければ余剰する古紙発生国である為、古紙問屋の採算悪化の防止にはなっても余剰問題の根本的解決にはなっていない。

さらに今年は冷夏や台風被害、米中貿易戦争による輸出企業の業績不振、消費税増税の反動など段ボール製品自体の販売が悪く製紙メーカーの使用する古紙そのものの量が減ってしまっている事も二重苦、三重苦の状況となっている。

古紙平均売価の下落と採算悪化に対応すべく各地で古紙仕入れ価格の値下げ或いは無償化、条件によっては運賃を貰うなど逆有償化も進みつつあるが、また違った側面で問題も出始めている。 

今まではお金を払って古紙を引き取っていた為ある意味古紙問屋は排出元から見れば客であり、古紙は利益を生む「商品」であった為、品質や分別に関して要求ができる。しかし回収が逆有償となりお金を払うという事になると発生元は「ゴミ」という認識となり品質の要求が難しくなる。

また行政などは逆有償となれば税金を投入しなければならず事前の予算が必要になる上、手間をかけて市民に分別させた古紙がリサイクルできないという事になれば、この数十年行ってきた教育や分別回収の普及に関する取組を否定する事となってしまう。さらに一般回収は本来インフラ的意味をもつ為古紙回収が回収エリアによって有価の場所や逆有償の場所がでると市民から不平等に対する不満が出る事も事実だ。

 製紙企業の考え方

 こういった古紙余剰問題に対しては古紙のユーザーであり大手企業である製紙メーカーがそのインフラ維持の責務を果たすために対応策を検討しているが、メーカーごとにその取り組み方や考え方が異なっている。

とあるメーカーでは数量カットは止む無いが、段ボール古紙受け入れ数量の内9割は国内建値(18円)、1割は輸出価格にて購入し輸出用原紙を製造し海外へ販売する。国内需要は悪いがマシンを止めず稼働を続ける事で古紙消費量を少しでも増やそうという考えだが、アジアマーケットに販売するには現在の古紙国内建値では競争力がない為、輸出価格にて古紙を調達し原紙を製造をするというものだ。しかしこの対応策には賛否両論様々な意見がでている。 

製紙メーカーは古紙荷受けの拒否ができるが、古紙問屋は日々発生する古紙の荷受け拒否が難しい。すでに置き場の無くなった古紙問屋は価格に関係なく是が非でも古紙を受け入れしてほしいという問屋も多いのは事実だ。

 古紙利用を維持するためには

一方で過去2年間に於いて高騰する古紙価格から段ボール原紙は値上げされ、古紙価格が下落した現在もその原紙価格は据え置かれたままである。段ボールユーザーからなぜ国内向け原紙も輸出価格の古紙によって製造しないのか、インフラ維持の為の国内建値維持と矛盾するのではないのかといった反発が出かねないといった両方の意見が存在する。

輸出用原紙の製造を増やすといった方針は同じであるが、難処理古紙の調達を増やす方向へ舵を切ったメーカーもある様だ。過去数年、古紙価格の高騰に対するコスト増を緩和するため安価な難離解古紙を効率よく使用できる高濃度パルパーなのどの設備投資を行ったメーカーも数社あった。

しかし現在は一般段ボール古紙の価格自体が低位安定し難処理古紙を使用する意義そのものが薄くなってきている。また難離解古紙は大量の残渣が発生しその処理費が嵩む為、難処理古紙の使用量を減らす方向へ舵を切っている事が多い。しかし、既存のマシンではなく新設マシンに於いては逆に難離解古紙の使用率を上げ輸出用原紙をメインに製造するといった方針をだしているというのだ。

理由を聞くと現在は短期的に古紙は余剰しているが、将来人口減少に伴い必ず日本の古紙発生量は減少する。板紙の消費量も同じく縮小する。しかしアジアにおける板紙の消費量は将来も継続して成長し、中長期的な事業存続計画の為に東南アジアへの輸出を強化し将来不足するであろう古紙事情に今から対応する必要があると考えているとの事だ。

その為に難離解古紙回収の掘り起こしとインフラ維持、使いこなしのノウハウを築き東南アジアの品質レベルに対応した原紙を製造する。安価な難処理古紙を使用する事により国際市場での価格競争力もつく。また難離解古紙を一定量配合しアジア品質に対応した段ボール原紙を国内流通させることは難しく、エンドユーザーからの反発や国内製品価格維持の足枷にはならないのではないかといった思惑もある様だ。

 脚光を浴びる再生パルプビジネスは?

 国内の段ボール原紙在庫の増加と米中貿易戦争の影響で原紙輸出が難しい現状において、中国でニーズが増している再生パルプを作れないか検討しているメーカーもある。輸出向けに安価な段ボール原紙を製造するのではなく、古紙不足により発生している再生パルプ特需に対応することにより、目先安価な古紙を調達する事のお題目と古紙余剰問題解決への糸口とするというものだ。しかし再生パルプは繊維長の長いAOCCを使用する事が要求され、また日本の製紙コストでは採算が合わないといった壁にぶつかり実現には課題が多いと思われる。 

いずれも板紙製造ラインの稼働率はすでに90%台と高稼働率であり製造能力は決まっている為、今後予定されている新設マシンや停機予定の用紙マシンでの古紙利用を検討しない限りこの古紙余剰問題を解決する事は難しいと思われる。

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