米中貿易戦争の影響が出始めた日本の板紙輸出

  ■ 米中貿易戦争の影響が出始めた日本の板紙輸出

2019年3月30日

 ECビジネスの拡大により中国国内の段ボールや包装紙の内需が成長してきたが、2017年の古紙輸入規制以後慢性的に中国国内で紙が不足し、世界各国からの輸入が急増した。 2018年の紙・板紙輸入総量は590万7,291㌧で前年比は34.3%増となった。 

そのうち新聞用紙47万9,835㌧、印刷用紙は51万1,176㌧で、インドネシアから30万9,849㌧、塗工印刷用紙合計は49万2,565㌧(前年比10.2%増)。 板紙合計は335万2,319㌧(38.5%増)そのうちライナーが99万9,424㌧(36.5%増)。中芯原紙が100万308㌧(91.6%増)で、インドネシアから39万7,391㌧前年比2.6倍と急増し段ボール原紙合計は246万5,400㌧(59.6%増)となっている。

 東南アジアも中国へ輸出

正隆社も2016年以後中国向けに中芯原紙の輸出を大幅に増やし、不足する台湾国内向けは韓国からの輸入で賄った。

中国向け中芯成約価格は需要期でCIF 600-500ドル強と高値をつけ、一方台湾向けに輸入購入した韓国品はCIF 450ドル(当時韓国はTHAAD問題で中国税関から韓国品の輸入に制限が入っており中国向け販売に苦慮していた)程度で、台湾ローカル中芯価格350ドルの値上げ圧力に寄与した。

アジア各国でも中国向け原紙価格の高騰につられ同様の原紙不足が発生し、直近2-3年で価格改定が急速に進んだ結果となった。

中国の板紙輸入元はインドネシア、米国、ベトナム、台湾となっており、日本からの輸入は3%に留まっている。 元より日本国内の需給もタイトであることと、日本の製紙メーカーは国内客先への安定供給に主軸を於いており東南アジア製紙メーカー程価格につられて大きく輸出へ舵を切ったわけではないが、分母は少ないながらこの2013年以降東南アジア向けも含め前年度比10%~多い時で40%程増加している。

当然円安もありアジアからの引き合いが増えたこともあるが、海外の自社工場への供給と内製化、人口減少から成長と生き残りをかけた製紙の海外進出が急務になった為、アジア価格の計点観測的意味とマーケットスタディを含めて輸出を増やした。    

 原紙値上げと輸出による需給調整

昨今古紙価格の急騰と運賃・人件費等の値上がりによる段ボール原紙メーカーの収益圧迫は二年連続の国内原紙価格の値上げに発展したが、実際毎年1-2%の需要増、さらに輸出の増加もあり生じた需給のタイト感は下落した古紙価格に代わる原紙値上げ理由として大きな意味をもつこととなった。 

ところが、ここにきて日本からの中国、東南アジア向け輸出に急激なブレーキがかかり始めている。 当社も日本の原紙を海外特に中国向けに輸出しているが、過去2年ほどは不需要期である旧正月中も飛ぶように原紙が売れた。 しかし昨年8月の米中貿易戦争に伴う25%の関税賦課後すぐに価格転嫁の難しい家庭紙の販売が滞り、段ボール原紙も10月以降徐々に売れなくなった。 

中国コンバーターは例年通り秋需による原紙不足がくるとの予測から、夏ごろヨーロッパの原紙を輸入成約しそれらの原紙が秋需前に船着したが、米中貿易戦争による対米輸出減により10月以降高騰する古紙価格とは反して原紙需要は強まらず価格はさほど上昇しなかった。 

その後不需要期である旧正月が明け中国系コンバーターに原紙のオファーをしているが、各社口をそろえて原紙在庫が多いとの返事が来ている。実際殆どと言っていいほど売れないのが現状だ。 

日本の段ボール原紙輸出通関統計をみると昨年の10月から5ヵ月連続前年度対比割れという結果が浮き彫りになってきた。 10-12月は前年度対比90%前後ではあったものの4.5万㌧以上とそれなりの数量を維持していたが、年が明け1月は2.8万㌧で前年度対比75.5%と月3万㌧を割り込んだのは実に1年8ヵ月ぶりだった。 

 米中貿易戦争で原紙輸出に陰り

今後米中貿易戦争が長引き中国の景気が停滞すれば必然的にアジアでの原紙の荷動きは鈍くなり、日本の板紙輸出へもさらに大きな影響がでてくるものと思われる。 また中期的に見て丸紅出資のベトナム製紙工場、王子マレーシア工場が稼働を始め、東南アジアの日系企業に販売を初めた場合さらに輸出が厳しくなることが予想される。 昨年平均4-5万㌧ほどあった段ボール原紙の輸出が滞れば国内の需給バランスにとってネガティブな要因になる可能性がある。

台湾でも古紙価格の下落と中国向け原紙輸出の停滞により需給が緩み原紙の値下げ圧力が強くなって来ている。 旧正月にマシン改造や休転を行い需給の引き締めを行っているが、アジア価格の下落は台湾にとっても対岸の火事という事では済まなくなってきている。 

現在の市況は原料安の製品高。苦労なく古紙が潤沢に手に入るため製紙メーカーにとっては追い風の市況ではあるが、過剰に下落した古紙価格によって製品価格に影響が出始めている。

 台湾大手製紙3社(正隆・栄成・永豊餘)は国内原紙値下げ圧力へのけん制と旧正月明け中国市況の回復に対する期待から3月、古紙が下落したこのタイミングで段ボール原紙価格の値上げを発表した。おそらくこの値上げを取りきることは難しいと思われるが、大手三社の値上アナウンスは原紙価格が崩れる事に対し楔を打つ意味合いもあるのではないだろうか。


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