■ 第四次産業革命 ≪インダストリー4.0≫ 紙分野での応用
2021年2月7日
「インダストリー4.0」とはドイツ工学アカデミーと連邦教育科学省が2011年に発表した、製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化により製造効率を飛躍的に向上させる事を指す。
4つの設計原則があり、IT技術、AI、5G通信、ビックデータなど最先端技術を応用することを前提としている。
- 相互運用性 (Interoperability) – 通信手段を介して、機械、デバイス、センサーおよび人間が相互に接続し連携する。
- 情報透明性 (Information transparency) -それぞれの分野で収取された情報がビックデータとして蓄積、適切な決定を下すために膨大な量の情報を管理・運用する。
- 技術的補助 (Technical assistance) -情報を総合的に集約および視覚化することによって人間をサポートする補助システムの機能を構築。人間の作業が不効率な分野の機械化・自動化。
- 分散型決定 (Decentralized decisions) -個々の分野機構が自ら決定を下し、可能な限り自律的に業務を実行する。
第三次産業革命以前の産業革命の特徴は下記の通りとなっている。
- 第一次産業革命
18世紀のイギリスで始まった機械化による軽工業の発達と蒸気機関や石炭を動力源とした工業の機械化。動力源の確保により農業・林業・水産業や紡績業などの軽工業が機械化した。
- 第二次産業革命
19世紀後半、鉄鋼・機械・造船などの重工業が発達し、鉄道や蒸気船が発達し運送手段の革新が起こった。また石油資源を利用した化学工業という重化学工業部門での技術革新が起こり、消費財などの大量生産が行なわれるようになった。特に鉱工業・製造業・建設業や電気ガス業などに大きな革新があった。
- 第三次産業革命
20世紀半ばから後半にかけての原子力エネルギーの活用やコンピュータの発達とICTによる生産の自動化、効率化。21世紀初頭のインターネット技術の発達と再生可能エネルギーの開発。サービス・通信・小売り・金融や保険などが飛躍的に発展した。
第四次産業革命は現実の工程を監視制御すると共に、生産工程や流通工程のデジタル化により、生産や流通の自動化、バーチャル化を大幅に高めることで、生産コストと流通コストを極小化し、生産性を向上させることを主眼に置いている。
情報通信・医療・教育サービスなどの知識集約産業への応用が期待されており、製造業も超効率化とによる省資源化・コスト削減など競争力確保へ繋がる。
生産ラインの高効率化は以前から行われていたが、生産設備が機器故障によって停止することのないよう機器の故障や異常を事前に予知して保全することで生産設備の稼働率を高める予知保全なども重要なポイントとなる。
IoT技術の導入によって、機器の稼働情報や設置場所の温度、湿度といった情報などをビッグデータとして集め、パフォーマンスの低下などをAIによって検出し修理を行うことで、これまでのように平均故障間隔や人間の経験則などから行っていた頃よりも、より的確に保全が行えるようになる。また必要製造量・在庫量の予測などマーケティング分野への活用も研究開発が進んでいる。
欧州ではデジタル技術を活用した第四次産業革命を製紙・紙加工分野へ導入する動きが活発化してきている。紙加工への応用が期待されている部分は
- 各種センサーや故障履歴・歩留まりの記録により、機械寿命やメンテナンス時期、修理内容の自動計画により、突発的故障の防止と不必要な休転の削減による生産効率化。
- 原材料の調達・受発注業務、製造管理、在庫管理、配送業務までの一貫化と効率化
- 各部署の連携と情報集積(ビックデータ)の作成・活用
- 3Dプリンティングの活用によるより効率的な製造機器の開発
- 自動化による人材不足対応と労務費の削減、人材教育への応用
イタリアでは印刷業界において中小の印刷会社や紙加工会社が連携し、在庫の圧縮や製造の効率化、サプライチェーンや市場ニーズのデータベース化を進める。B to C、B to Bの需要を正確に把握し分析する事により、大量生産・低価格帯での価格競争を脱却し、オンデマンドサービスによる付加価値向上を目指している。
ドイツBHS社のLars Engel氏(専務取締役)は「インダストリー4.0」は業界に大きな革新をもたらし、時代の進化のスピードを加速するきっかけになると考えている。
NokiaやBlackberryはタッチスクリーンが主流になることを予見できず市場の90%を失った。コダックがデジタルカメラを発明した5年後にフィルム産業の多くが倒産に追い込まれた。一方で中国アリババ社はオンラインビジネスにいち早く参入し、わずか6年で売上が1600%になった。PC事業で成功したアップル社はIpodによって音楽業界で大きな成功を納め、Iphoneはわずか5年で同社を業界世界一位の会社に押し上げた。一つの革新的な技術は5年で業界の地図を書き換えてしまう。
Lars Engel氏はインダストリー4.0の取入れによって工場内業務の改善に取り組むと宣言している。 紙、蒸気、スペース、電気、スターチ、ロスの管理、さらに自動化によって50%の人員を削減。デジタル印刷を取り入れることにより、印判変えの作業が発生せず完全な自動化が可能。顧客ニーズから正確な原紙構成や設計、無駄のない生産を実現する。iLiftersとiShuttlesは工場内の輸送や出荷をコントロール、完全自動化された構内運搬は完全にトラッキングされ効率的で無駄のない管理を実現する。 生産から在庫・ロジスティックなど全てのプロセスを最小化することが可能だ。
2025年の包装業界は人、機械、物流車両、原紙を一貫管理する様になる。各部門が相互にデータ通信を行い、より効率化されれたプロセスを自ら学習する。より高効率、自律性を実現し人間の干渉を減らすことでヒューマンエラーを削減できるだろうと語っている。
デジタル化や今回の新型肺炎の流用により印刷業界の衰退は加速し、多くの新聞や雑誌など印刷業界は閉鎖を余儀なくされるだろう。一方段ボール需要は通信販売の拡大によって需要は堅調だ。しかしテスラの時価総額がトヨタを上回ったように時代の変化は加速している。かつて街中にあった商店街や個人商店は大型ショッピングモールやコンビニによって衰退した。昨今は百貨店など大型店舗は通信販売にその主力の座を譲っている。
今後顧客であるAmazonや通信販売業界が段ボール業界に参入しない保証はどこにもない。巨大な資金と技術をもつITやネット通販業界が包装をその一部に組み込み、物流・在庫システムや包装作業を一元管理する様になることは想像に易しい。
古き体質のままの日本の段ボール業界、この5年で最新技術を導入し革新していかなければ繁栄の道は険しいのではないだろうか。