■ 世界的インフレとその原因 物流コスト要因はどれほどか
2022年2月12日
新型肺炎によるサプライチェーンの混乱と海上輸送費の高騰、原燃料価格の上昇によって世界的なインフレが進んでいる。アメリカの雇用統計によると1月の平均時給は前年度同期比5.7%増、EUに於いても消費者物価指数は5.1%少々した。世界の平均インフレ率は20年3.0%、21年3.3%になる見通しだ。一方日本の消費者物価指数は前年度比0.5%と世界に比べ非常に低い水準に押さえられている。 日本の小売業は元来コストの上昇を価格に転嫁しないとして有名だ。先日1本10円のうまい棒が12円に値上がりしたことがニュースになっていたが、欧米ではこんなことがニュースになること自体あり得ない。長らくデフレが続いた日本では値上げは「悪」であり、消費者も永遠に今の価格が維持される事を当たり前の様に考えている。
しかし4月以降日本においても様々な消費者商品が値上げされインフレ率が大幅に上昇すると言われている。 世界中のインフレニュースが報道され、長らく我慢していた値上げを受け入れてもらえる環境が整ったと判断し、副資材を含め値上げが相次いで発表されている。さらに米国金利の上昇で円安が進んだことや、ウクライナ情勢によって原油や天然ガス、輸入品のコストが一段と上昇するリスクが出てきたことが大きな要因だ。
段ボール箱も原材料となる段原紙が2月1日より10円或いは5%前後の値上げが発表されたことで4月以降値上がりする。今回段ボール原紙の値上がりはCO2排出削減に伴う環境設備投資が主な原因となっているが、段ボール箱は原紙の値上がりに加え、インクやスターチなどの副資材の価格上昇や、物流コストの増加分も価格に折り込んだ値上がり幅となっている。
日本ロジスティクスシステム協会の調査によると、製造業、小売業、卸売業に係る売上高物流コスト比率は20年に14年ぶりの5%台を記録し、21年は5.7%となった。物流コストが上昇している要因は、海上輸送費の高騰と、近年続いている労働力不足などによるトラック運賃や荷役費の値上げなどが背景にあると考えられる。同21年の調査に於いて、回答企業(169 社)のうち 66.9%が物流要因の値上げ要請を受けたと回答している。値上げ理由は輸送費の上昇が最も多く89社、荷役比が次いで54社、保管費が42社と続く。やはり値上げ要因の大多数が運送費を上げており、ガソリン価格上昇の影響が大きい。 さらに物流業界には働き方改革による24年問題が控えており、コスト増への備えは待ったなしの状況となっている。
海上輸送費の値上がりは原油価格の上昇も要因にあるが、港湾の混雑やコンテナ不足、船主が収益重視の航路に集中している事など需給要因が大きい。また、船会社が国外の企業であるケースが多く、企業数も少ない事から強気で強制的な値上げが整理している。 上記市場調査では卸売業にとって海上輸送費の高騰(輸入品)による影響は間接的要因となり、原材料費の上昇として反映されている事が想定され明確な物価上昇要因率は算出できていない。
しかしバルチック運賃指数によると、21年のアジア発米国行きコンテナ船運賃は前年度比5倍となっており、19年比では14倍と異常な価格になっている。 ムーディーズ・アナリティックスの首席エコノミスト、マーク・ザンディ氏は「輸送コストの高騰がインフレ圧力を押し上げている」と指摘する。大まかな推定として、輸送費は消費者物価指数上昇分の約10%を占めるという試算もある。トラック輸送費とコンテナ船という二重の不足が製品の物流コストを押し上げており、空輸による輸送も急激な増加傾向にある。
海上輸送コストの上昇は原材料価格を押し上げ、直接的かつ間接的に企業の製造コストを押し上げた。 多くの原材料を輸入に頼っている日本は海上輸送費の上昇と円安の影響によってさらにコストが上昇し、国内の物流コストも燃料費、人権費もコスト増を助長するだろう。
市場原理として企業の収益確保と健全化の為コスト転嫁はやむを得ない事だ。4月以降、店頭に並ぶ商品に少なからず影響を及ぼすと見られ、日本もインフレの波は避けられない様に思う。