■ 欧米諸国ロシア機の飛行制限 報復制裁で医薬品等の調達に影響
2022年3月6日
欧米諸国によるロシア機の空域通過禁止措置にロシアが報復措置を取った事で、欧州から極東地域への航空便がロシア上空を通過できなくなった。これにより日本、韓国を始めとするアジア-欧州間の人と物の移動に大きな影響がでることが懸念されている。
欧米各国はロシアのウクライナ侵攻に対する制裁措置として、ロシアの航空機およびロシア人により運航される全てのフライトおいて空域通過を制限する措置を決定した。現時点でロシアの航空機の飛行制限を実施している国はNATO加盟国及び北米の37ヵ国となっている。 ロシアは対抗措置として特別に許可を得た場合を除き、民間航空機によるロシア空域の飛行を制限する声明を発表した。飛行制限はベラルーシやセルビア、ボスニアなど新ロシア国家を除く欧州・東欧のほぼすべての国が対象となった。
これにより欧州から日本や韓国を含む極東地域へ向かう航空機のほぼ全てが、迂回ルートを通らざる得ない状況となった。日本への運航を中止した航空会社による定期便は20便程度。 ブリティッシュ・エアウェイズとフィンエアーが3月6日まで、エールフランスは日本路線を含むアジア路線の運休を決定した。また、KLMは日本・韓国・中国路線を当面の間運休する。 欧州の航空会社で日本路線を運航しているのは、ブリティッシュ・エアウェイズ、フィンエアー、エールフランス航空、KLMオランダ航空、ルフトハンザドイツ航空、スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)となっており、今後その他の航空機会社も運休などフライトを見合わせる可能性が高い。
一方、日本政府はロシア機の日本上空飛行制限措置に対し慎重な姿勢を見せいている。ロシアから対抗措置を受け、ロシア上空を通過できなくなった場合の影響が大きいためだ。
民間航空機会社は本政府が対応に苦慮する中、一足先にリスクや安全を考慮して自主的に空路の変更や欠航といった措置を取り始めている。 全日本空輸は3日に出発を予定していた欧州全8便の欠航を発表。全日空は、3月10日まで、ベルギーのブリュッセル行空路とドイツ・フランクフルト行の路線は、中央アジアを通る南回りにルートを変更して運航する事を発表した。日本航空は、パリ、フィンランドを結ぶ便を7日までは欠航することを決定。またロンドン行き路線の一部においてアラスカ上空を通る北回りにルートを変更して運航する。これにより最大で4時間半程度飛行時間が延長されるという。
ロシア上空の飛行制限は人の移動だけでなく、物流にも大きな影響を及ぼしはじめている。
日本はがんの治療などに使う放射性医薬品の殆どを輸入に頼っており、オランダなどから空輸によって運んでいる。これらの放射性医薬品の半減期は6時間と短く、備蓄ができない上に海上輸送も不可能だ。こういった空輸でしか運べない医薬品の輸入が滞り、治療や検査ができないなど影響がでる恐れがある。
仮に空路を変更して運べる物品に於いても、大幅なコストアップとなる可能性が高い。モスクワを経由していた貨物機は南側の航路で飛ぶこととなり、カザフスタンやトルコなどを経由することとなる。 迂回航路を選んだ場合、既存航路より飛行時間が3時間近く長くなり燃料コストも増加する。 さらに限られた空路にフライトが集中することで各空港の処理能力が超過する事や、上空、地上待機など遅延が課されることも予想される。
また海運各社はロシア発着のコンテナ船の運航を見合わせる発表をしており、海路も閉ざされている。ウクライナ、ロシア近海航路及び空路は損害保険料率が高騰し、場合によっては保険の引き受けを拒否される可能性もある。英国政府は2月28日にロシアと関係のある船の英国への入港禁止を発表した。 航空、海上貨物共にキャンセルや迂回を余儀なくされており、サプライチェーンの緊張がさらに高まり大幅なコストアップとなることは避けられない。
現時点でロシア航空機の飛行制限を実施中の37の国と地域は以下の通り。
アルバニア、アイスランド、アイルランド、アメリカ、アンギラ、イギリス、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、カナダ、ギリシャ、キプロス、クロアチア、ジブラルタル、ジャージー、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク(グリーンランド、フェロー諸島を含む)、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブリティッシュバージン諸島、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク