■ 欧州天然ガス不足と厳しい越冬
2022年9月29日
欧州の電力会社は石炭やLNG価格が急騰した事によって、原燃料調達のヘッジ取引に対する巨額の追証が必要となり、フィンランドのリンテイラ経済相が「エネルギー版リーマンショックが発生してしまう」と発言した事が物議をかもした。少なくとも1兆5000億ドル(約210兆円)を追加課金する必要があり、市場全体が機能を停止する恐れがあるという。
一方ドイツはLNGロシア依存から脱却しようとオランダやベルギー、ノルウェーなどからの調達に切り替え、同国のLNG貯蔵量が90.07%に達した事から、ショルツ首相は越冬用のLNGは確保したとの見解を示した。
しかし8月の生産者物価は前年比46.8%上昇し、景気後退入りが確実視されている。 市民生活では物価の高騰や電気代の値上がりも深刻だが、天然ガスそのものが不足すると越冬に必要な暖を取ることがままならなくなる。日本を含むアジア各国ではエアコンが普及しているが、欧州各国ではエアコンはほとんど普及していない。代わりにガスボイラーによるセントラルヒーティングが古くから普及している。 「ガス危機」によりシャワーや冬場の暖房に危機感を募らせた欧州の人々の中には、冬場は温暖なトルコのホテルに避難する事を検討する人が増えており、11月のトルコホテル予約数は例年の5割増しになっているという。
インフレやガス不足に加え厳しい欧州の越冬に人々が不満を持てば、ロシアとの反戦へとつながる可能性も否定できない。ウクライナの終戦はロシアの敗北とプーチンの失脚が先か、欧州市民が音を上げるのが先か。現在の欧州天然ガス不足と消費低迷を打破するのはウクライナ戦争が終結し、西側とロシアの関係が修復される意外の道は難しいだろう。この市況低迷はすぐに改善せず長期化するかもしれない。