■ 中国経済に急激な失速感 インフレ抑制政策と共同富裕 自由経済の危機に消費縮小
2021年9月18日
9月は秋需とクリスマス商戦といった需要期に入る。しかし中国経済に急激な失速感が感じられる。またベトナムを始めとするアジアの都市封鎖によってアジア全体の原紙需要も弱まっている。
今年4月末、中国政府は、物価(原料価格)の急激上昇に伴う企業へのコスト圧力を緩和するために、原材料市場の規制を強化する方針を発表した。一部の鉄鋼製品の輸出関税を15~25%に引き上げる事や輸出税還付の撤廃、鉄や金属スクラップの輸入に対する暫定税率を無税化するなど、国内市場への供給促進政策を実施する事を発表した。 また先物市場への投機的な投資を監視、必要があれば処罰もありうることに言及。
これを受け鉄鋼石や銅価格が下落。年初来の高値を更新していた上海パルプ先物価格も6%急落し、7月には20~30%の下落となった。また紙の委託加工貿易を解禁した事で輸入紙の流入を促進、9月で期限切れとなる暫定税率(対米関税の免除措置)のうち、木材パルプと再生パルプの関税はゼロに据え置く事を発表した。 高板やアイボリー価格も4割以上値崩れし、未だその下落は続いている。
こうしたインフレ抑制の取り組みと、7月下旬から新型コロナウイルスが再び広がる中、大規模な行動制限を繰り返す対応手法に中国経済と包装材の需要に陰りが見え始めた。本来古紙の輸入禁止によって強い段ボール原紙輸入需要が生まれる事が期待されていたが、物価抑制政策が発表された5月以降、段ボール原紙の輸入量は伸び悩んでいる。
インフレ抑制政策に続き、中国指導部は8月中旬「共同富裕」政策の下、富の配分を強化する方針を発表した。
巨大化し力を持ち始めたIT企業の力を抑制する事と、広がった貧富格差の是正によって低所得者層の支持を狙ったものと思われる。企業による社会への寄付によって再分配する三次分配を強調しており、企業はやむなくこの方針に従っている。 IT大手の「テンセント」が、日本円で8500億円を拠出すると発表したほか、ネット通販大手の「ピンドゥオドゥオ」が1700億円を拠出すると発表。中国の6大巨大IT企業が支払った寄付金は総額で2,000億香港ドル(約2兆8,000億円)に達しているという。
また統制の対象となっているのは企業ばかりではない。芸能人もその標的となっている。上海市税務局は8月27日、某女優の脱税を摘発し追徴課税・罰金処分を科すと発表した。「共同富裕」の理念のもと、富裕層の違法な所得や行動を許さないという党の公正さを国民に広く示すため、富裕層個人や芸能人もターゲットとしている。
さらに学習塾など民間教育業に対して「非営利化」を求めるなど強い規制を講じた。過剰な学歴競争と格差社会を助長し、また教育費に係るコストは家計を圧迫し、学習塾などを肥大化させていると非難した。
これを受け、中国では急激に消費が冷え込み高板や段ボール原紙の引き合いが弱まっている。 広東玖龍紙業は8月末から9月初旬にかけて段ボール原紙の値引きセールを実施した。値引き幅は100~RMB($10~/t)でピークシーズンの値引きは極めて珍しい。
この何とも言えない消費の冷え込みは過去にも似たような事があった。2013年4月に発表された共産党員への接待禁止令だ。高級品の白酒や贈与品の売れ行きが減退し中国景気全体が停滞、コートボールの価格が一気に崩れた事を覚えている。クリスマス商戦や年末の忘年会、春節もパッとしなかった。 2013年の白板消費量は前年度比-5.0%、段ボール原紙は-2.36%だった。