進まない港の自動化 港湾既得権と国際競争力の低下②

  ■ PORT2030 日本の港湾自動化計画

 港湾作業の自動化は1990年代にロッテルダムで初めて導入され、現在は釜山をはじめ多くの国が採用し飛躍的な作業効率の向上と荷役量の増加に成功している。世界のコンテナ取扱量上位20位の港湾自動化導入率は75%にも達し、中国上海や青島、厦門港では第三段階まで自動化を進めている。
 港湾自動化の定義は、第一段階がレールマウントガントリークレーン等の遠隔操作、第二段階がAGVなどの導入による半自動化、第三段階がガントリークレーンなどを含むターミナルすべての自動化となっている。 

日本の港湾自動化を進めるべく国土交通省が2018年7月に港湾に関する中長期政策「PORT2030」を発表した。港湾を2030年までにAIやIoT、自働化技術を組み合わせた、世界最高水準の生産性と良好な労働環境を有する「AIターミナル」とすることを目標とした計画だ。 

PORT2030による港湾自動化の主な枠組みは、①AGV(無人搬送車)の利用 ②AIを活用したコンテナ荷繰りの最小化 ③自動運転車両と入場管理による道路混雑の解消 ④AIカメラなどを利用したゲートでのダメージチェックの効率化 ⑤港湾作業の遠隔操作化、自動化による能力最大化とオペレーターの労働環境改善 ⑥自動航行船及び遠隔タグボートによる本船の入港 ⑦loTと貨物運営のビックデータ化及びAIによるディープラーニングと作業効率化 ⑧岸壁の水深拡張工事と大型コンテナ船への対応などとなっている。

国土交通省は計画の立案に先駆け2016年から2018年まで、ヤード内でのコンテナの積卸に使用する巨大な門型のクレーン「RTG」の遠隔操作を行う実証事業を行った。さらに18年からはAIを活用したコンテナ蔵置計画の最適化の実証を進めている。
 横浜港ではPSカード(港の通行証)にドライバー情報、車両情報、貨物情報を事前登録し、ゲート入場予約や搬出・搬入手続きをワンタッチで完了できるシステム「CONPAS(Container Fast Pass)」の試験運用を行い、トラックの港湾入場時の所要時間を2割ほど短縮した。名古屋港飛島ヤードでは、日本唯一の無人搬送車(AGV)とソフトウエアが連携し荷役全体を制御、港湾作業の遠隔化など、第二段階までの半自動化に成功している。しかし上海港や釜山港などでは、AIやロボットを活用した「スマート港湾」に向けた取り組みが加速している。搬出搬入の自動化はもちろん、構内作業がすでに無人化(自動化)されている港も少なくない。日本の港湾自動化は大きく出遅れているのが現状となっている。

 既得権を主張する港湾労働組合 港湾作業自動化の妨げに

日本で港湾作業の自動化(無人化)が遅れた背景には、港湾労働者の反対が大きく影響している。国土交通省がPORT2030を発表した翌、2019年4月に全国の港湾で大規模なストライキが行われた。最低賃金の引き上げや安定雇用の約束などを求めたもので、平日のストは1997年以来22年ぶりだった。 
 荷主に対し事前にストライキが告知され大きな混乱が発生せず、ニュースではあまり取り上げられなかったが、港湾労働者側の要求は ①賃金の大幅な値上げ、②定年退職の延長、③雇用の安定とかなり強烈で強いものだった。

賃上げ要求は時間外労働賃金1.6倍、土日労働割り増し2倍、深夜労働割り増し2倍、休日出勤3倍など大幅な待遇改善で、さらに定年を62歳に引き延ばすことや勤続47年以上の労働者の退職金を3500万円にする事などが要求された。雇用の安定性に関しては、日雇い労働者の雇い入れ禁止、派遣労働者の禁止、港湾自動化計画の中止要求が盛り込まれている。 港湾作業が自動化されれば、「自分たちの仕事が失われる」というのが彼らの主張だ。 

これまでも自動化、無人化とはいかなくとも、混雑に困惑する物流業者や船会社から様々意見や要望が出されたが、ことごとく拒否され港湾作業の効率化は一向に進んでいない。港湾労働者は既得権化した現在の職場を守るため改革に否定的で強い抵抗を示しているが、港湾作業の効率化が進まない事で日本の競争力が損なわれ経済成長を阻害している。 
 日本の一人あたりGDP購買力平価は2019年に韓国に追い抜かれ、日本の経済成長が止まっている事を「失われた30年」と称したニュースを最近よく目にするようになった。企業のDXは遅れ日本企業は国際競争力を失いつつあるが、このままでは日本は取り返しのつかない貧しい国になってしまう。港湾の自動化にしても鈍足に進め、仮に10年後に実現した所で遅すぎる。今こそ失われた30年を取り返す最後のチャンスではないだろうか。賃上げ交渉と待遇改善要求は労働者の権利で大切なことだと思う。しかし港湾作業を自動化しないで欲しいという話は別だ。貿易国家日本の窓口である港湾作業の効率化に対し是非とも前向きに協力して欲しいと切に願う。

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