■ 深刻な古紙不足の懸念と今後の需給
2021年7月31日
古紙輸出価格が低迷した2019年以降、日本の製紙メーカーは古紙の回収インフラ維持を目的に輸出向け段原紙の生産を増やした。 稼働率を上げることで古紙の消費を増やし、かつ相次ぐ段原紙増産によって国内の需給バランスが崩れる事を防ぐ目的もあった。 また人口減と景気停滞から今後国内では高い成長率は望めない事から、成長するアジアマーケットの開発を成長戦略の一つとして位置づけた。
古紙輸入禁止政策によって中国で原紙不足が発生する予測と、2018年の中国段原紙価格高騰の記憶及びアジアの経済成長は、十分に将来性が期待できるものだったといえる。 20年下半期以降は古紙不足やコンテナ不足が原因でアジアの段原紙価格も大きく上昇し、円安効果も相まって製紙企業の輸出採算を好転させ輸出しやすい環境となった。
2020年の段原紙輸出量は前年度比41万㌧増の88万㌧を超え、さらに21年は1~5月で42万㌧(前年度同期比148%)まで増加し年間100万㌧を超える勢いとなっている。 一方で海外の原紙価格が上昇した事や円安もあり、輸入原紙は減少した。 1-5月の輸入量は前年度比63%と大幅に減少し、代替えの効かない米国産バージンベースのクラフトライナー供給も止まった事で大きな問題となった。
製紙メーカーの輸出向け段原紙生産の増強によって国内の古紙消費量は増加し、古紙インフラ維持という目的は達成された様に思われる。現在は古紙輸出価格も回復し、引き合いも強い事からそういった側面からの原紙輸出によって稼働を維持する必要性はなくなった。
その一方で段原紙の輸出増加は国内の古紙不足という副産物を生み出した。 輸出された段原紙は国内で消費循環する事がなく、実質古紙の輸出と同じ効果を生みだす。1-5月古紙の輸出量は16万㌧減少したものの、輸出原紙生産の為国内古紙消費量は17万㌧増加し、42万㌧の段原紙が輸出されれば必然的に国内に循環する段ボール量は急減する事となる。
日本の製紙企業は国内原紙需給の調整とアジアマーケットを開発し企業成長を維持するためにも輸出を継続的に行う必要がある。しかし古紙消費量を増やすことで古紙不足を引き起こし、輸出古紙価格の高騰も重なって輸出原紙生産用に容易に調達する事ができなくなるといった矛盾に直面している。
日本の段古紙回収量は年間1050万㌧(国内出荷量+輸出量から推測)を超えており、950万㌧程ある段原紙生産量よりも多い古紙発生国だ。余剰した古紙は輸出され需給バランスが取れる構造となっている。 回収量が生産量より多い理由は、包材として製品と共に輸入される段ボールが開梱され古紙として回収されるためだ。
しかし新型肺炎の流行と昨今の円安傾向により輸入量は減少、貿易収支は2020年以降黒字(輸出が輸入を上回る)状態となっている。18,19年は年間1兆円を超える貿易赤字であったが、20年は5630億円の貿易黒字、21年は1-5月で6000億円規模の黒字収支となっており、包装材としての段ボール流出入量はマイナスとなっている可能性が高い。この影響は今後古紙の回収量として表面化してくると思われる。