パルプを大増産する中国とチップ争奪戦⑦

  ■ 増加する世界のチップ貿易量  2009年から11年間で50%増加

世界の木材チップ貿易量は年々増加傾向にあり、2009年の約2,100万㌧から2018年に過去最高の3,500万㌧に達した。その後、2年連続で取引量は減少したものの、2020年も約3,000万㌧を超える取引量となっており11年間で約50%増加している。 貿易量が増加した主な要因は、国内での木材調達ができず輸入を増やした中国の影響が大きい。中国以外の国の木材チップ貿易量は約2000万~2100万㌧と比較的安定的に推移していたが、新型肺炎の流行により世界の貿易量が減少した2020年には1,700万トン弱まで減少した。 

一方中国の広葉樹チップ輸入量は2008年以降年々増加しており、2020年も前年度比7%増加、過去最高の1320万㌧に達している。 5年前に日本の輸入量を超え、今や世界の貿易量の43%、外販チップの輸入量の50%を中国が占めるほどになっている。世界貿易の増加要因はほぼ中国の輸入量増加分である事がわかる。

中国に輸入される製紙用木材チップの供給国は需給や木材種だけではなく、地政学的要因にも影響されながら変化してきた。大型パルプ工場が建設され始めた2008年当初は、品質よりも価格の安いベトナム、タイ、インドネシア産のアカシア木材チップlower yield fiber (LYF)が好まれた。 

しかし2013年以降需要が大きく変化し、繊維密度が高いユーカリニテンスやユーカリグロブラスなどの木材チップhigher yield fiber(HYF)がオーストラリアやチリ、ブラジルから輸入されるようになっている。HYFは歩留まりが良く、薬品使用量を抑えることができることから、中国の輸入量全体に占めるHYFの比率は2012年の11%から17年には47%と急激増加する事となった。

その後さらに状況は一変、2020年は中豪の関係が悪化し、輸入された木材から害虫が発見された事を原因に、中国政府はオーストラリア産木材の輸入を禁止した。その影響で、同国からの輸入量は前年度比30%減少し、中国は再びベトナムからの輸入量を増やした事で2020年第4四半期のHYF比率は33%にまで減少している。

中国のパルプ用木材チップ輸入量は安定的に増加している一方で、2022年からロシアは中国向けの木材輸出を禁止し、アメリカからの木材輸入量も米中貿易戦争によって減少傾向にある。 環境保護の観点から植林によって世界一の植林大国となった中国だが、自国の木材の伐採は禁止している。 新規調達先を確保しなければ中国のチップを含めた木材輸入相手国は限られつつあるのが現状だ。

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