■ インド原紙の購入を止めた中国① インド市場の成長課題とアジアへの影響
17年に中国が古紙輸入規制を発表して以来、アジア各国に製紙工場が建設され、アジアは中国に代わる製紙、古紙の消費地へと成長した。 インドへ中華系企業は進出しなかったものの、17年のGST導入以後長距離物流の発達とそれに伴う包装材の需要が拡大し、主に地元企業によって多くの段原紙工場が建設されている。2017年に328万㌧だったインドの古紙輸入量は急激に増加、翌年の2018年には641万㌧を輸入し、21年の輸入量は708万㌧に達した。東南アジア+インド地域へ輸出された古紙の3割強がインド向けだったという事になる。
インドの古紙輸入元は4割強が米国、EUとその周辺国が2割、英国が16%となっており、7割弱が欧米からの輸入となっている。 21年の米国古紙輸出量は1,633万㌧で、中国に代わる輸出向け先としてインド向けが396万㌧と前年度比1.8倍、その内段古紙は二倍の192万㌧に急増した。 しかしインド向け古紙価格はその変動幅も大きく不安定だ。 21年末に欧州古紙の一時規制からAOCC#12に対し380㌦を超える価格を付け、アジア全体の相場が上昇した。また今年6月は英国古紙を大量にキャンセルしたため欧州古紙が暴落し、日本の輸出価格下落の要因となった。 インドの古紙輸入量増加に伴い、同国の古紙購買姿勢が世界の古紙相場に与える影響も大きくなっている。インドは今後アジアのマーケットリーダーとなりうるのだろうか。
インドが欧米古紙を高値で買うようになった背景には、中国向け段原紙輸出量の増加があげられる。 中国は古紙原料が輸入禁止となった事で、再生パルプや段原紙を他国から調達する様になった。 2017年のインド段原紙輸出は6.2万㌧であったが、翌18年は31.3
万㌧、20年は59.8万㌧と3年間で10倍にまで急成長し、その内72%が中国向けだった。また再生パルプの輸出も685㌧から2.7万㌧大幅に増加している。 インド産段原紙は東南アジアのメーカーより50~100㌦近く、安価に調達できた事が大きなメリットとなった様だ。 しかし21年以降状況は一変する。中国はインドの段原紙を買わなくなった。20年に月平均3.6万㌧あった中国向けは、21年に2.9万㌧、22年は0.5万㌧になり、4月以降はほぼ輸入していない。 特定の製紙企業からだけではなく、その国からの輸入全てがなくなったのは他国を置いてインドだけとなっている。 中国向け段原紙の輸出がなくなった事でインド製紙産業は大きな影響を受けることとなり、古紙の購買意欲減退にも繋がった。
中国がインド産段原紙を買わなくなった一番の要因は価格だ。 他国より安かった価格が海上運賃や原燃料、古紙価格の高騰に合わせて値上がりした事で全くメリットがなくなった。 二つ目は品質問題。インドの段原紙は品質の悪いAMIX古紙を主原料としている上に、製紙に利用されている水質が悪く悪臭を放つ。価格が他国より大幅に安くなければとても使えない。 中国コンバーターのインド原紙に対する評価は非常に低く、輸入紙の中でも優先順位は低い。
中国の段原紙輸入は「共同富裕」や「インフレ抑制」、「ゼロコロナ政策」等によって経済が鈍化し、21年以降輸入量そのものが減少した。 20年に717万㌧まで増加していた段原紙の輸入は21年に100万㌧以上減少し、22年は上半期で258万㌧と減少の勢いは止まっていない。 しかしその輸入元構成比をみると、中国製紙企業が多く進出するマレーシアやラオスからの輸入量は増加している。 さらに古紙を輸入禁止とした17年以降も中国国内の段原紙増産は続いており、3年間で2,000万㌧近く生産能力が増強された。インドだけではなくタイやベトナムからの輸入量も減少傾向にあり、中国市場は飽和しつつあると言える。 またロシアの段原紙が安価に中国へ流れた事も影響した。ロシアのウクライナ侵攻以降、西側諸国の経済制裁によりロシア原紙が船積みできなくなった為、シベリア鉄道を通じて安価に中国に販売されるようになった。月平均2~4万㌧前後だったロシアからの輸入は、5月に6.1万㌧、6月には8.6万㌧にまで増加している。インドは販売の余地が狭まる中国市場に於いてロシア品や逆輸入原紙にとって代わられ、競争に負けてしまった最たる例となってしまった。