段原紙輸出増の背景と将来予測⑦

  ■ 段原紙輸出増の背景と将来予測⑦

2020年5月18日

 新型肺炎の影響

1~3月のOCC輸出量は前年度比1.4倍の49.3万㌧となった。背景には古紙問屋の旧正月と輸入ライセンスの縮小から古紙が余剰する事への危機感と裏腹に輸出価格が反転上昇し需要が堅調であった事が要因となった。

一方古紙の発生は輸入品が滞った事により減少しており、在庫を吐いた所に発生減が重なり昨年のような余剰感は緩和しつつある。 

日本の段ボール需要は前年度比95~99%前後を維持しており、食料品や日用品など巣ごもり需要は堅調だ。製紙の払い出しは輸出が増加したことにより99~102%程となっている。業界全体ではほぼ前年同期比と同量の払い出しを維持している。

大手製紙メーカーは輸出販売を強化する事を発表しているが、今後の1~3月ほどの輸出量が続くのだろうか。日本の段原紙輸出の足枷となる要因は4つ。 

① アジアの段原紙価格が下落したことにより価格が合わなくなってきている事。5月初旬のアジア中芯相場はおおよそCIF 300~330㌦、二か月前と比較して40~50㌦ほど下落した。円貨にすると33~36円/kg、そこから海上運賃などのコストを差し引くと工場手取りは23~26円前後となり、仮に輸出対応価格で古紙を調達しても合わない計算となる。ライナーの価格はBグレードで400~420㌦、日本の製紙会社が開発を進めるAグレードは450~480㌦前後まで下落している。 

② 経済の停滞により需要そのものが低迷。2~3月は都市封鎖により原紙が不足し中国からの引き合いが強かった。また東南アジアも中国代替え需要で内需が活況となり価格が強含んだ。しかし3月末頃から欧米で感染が拡大、都市封鎖が相次いだことにより東南アジアへの振替需要も弱まっている。4月に稼働を開始した中国に於いても輸出先がない状況に変わりはなく、製品需要が弱いことから5月初旬の労働節には長期休転を実施した。

③ 原料不足。輸入品が減ったことによって古紙の発生そのものが減少している。巣ごもり需要で国内の段ボール消費は維持されていることから古紙の輸出が継続すれば原紙輸出分の古紙を確保する事が困難となる。また輸出古紙価格の上昇から輸出対応価格での古紙調達に於いて採算を確保することは難しい。 

④ 為替変動。現状はアベノミクスによる円安政策は輸出にとって追い風となっている。国内との物価差も円安によって緩和されている。しかし新型肺炎による景気低迷への経済政策として各国政府が低金利政策を発表。中期的にみると円高に振れる可能性も否定できない。

上記新型肺炎による経済的要因により今後輸出を継続するには様々な弊害が発生する可能性は大いにある。肺炎流行以前の過去2年間の平均輸出数量は3.5万㌧~4万㌧/月。

最低でもこの輸出数量は今後も維持すると思われるが、50万㌧以上増産が計画されている国内に於いて、さらに4万㌧ほど輸出をしなければ需給に余剰感が生まれてしまう。長期的視点でみると肺炎の終息後は東南アジアに於いて段原紙需要は拡大し、中国でも原紙不足が発生することは間違いない。中短期的な不採算を承知で日本の製紙会社が輸出を継続するかが気になるところである。

最新情報をチェックしよう!