■ マレーシアへ進出する中華系製紙メーカーと法人税優遇措置 (外資誘致政策)
2019年4月20日
中国の環境規制により中国国内での原紙の生産が困難になる中で、各製紙メーカーは東南アジア(ASEAN)を第二の有力な製造拠点として認識しその投資を加速させてきた。 ベトナム、インドネシアに製紙メーカーの工場建設が続々と発表されているが、マレーシアも有力な次期製造拠点として大いに注目を集めている。
昨年8月マハティール首相は中国玖龍社を訪問、同社会長へ中華系製紙産業の投資を奨励することを伝えた。 ODAを除く2010年中国からマレーシアへの直接投資は27憶HKDであったが2017年には62憶HKDと増加しておりマレーシアに対する投資全体の7%を占める。 従来マレーシアは天然ゴムや木材資源が豊富だが、人口が少なく外資系の投資に依存し経済成長してきた。今後の新しい海外投資主として「環境規制」により海外進出を進める中国系民間製紙メーカーに白羽の矢を向けたのは当然の結果だったのかもしれない。
またマハティール政権のラブコールだけでなく、各製紙メーカーが中国に代わる紙の生産拠点としてマレーシアへの投資を加速させる大きな理由として同政府が実施している税制優遇がある。
マレーシアの法人所得税の標準税率は24%(資本金250万リンギット以下の小規模事業は19%)となっており配当金や役務提供(特許料等)にも課税される。 マレーシア政府はさらなる海外からの投資による雇用の増加と経済の成長を期待しており、景気刺激策、またグローバルビジネス拠点としての機能強化を目的とし大規模な優遇税率を2015年1月より施行した。
その内代表的な税制優遇は「パイオニアステータス」「投資税額控除」「再投資控除」「二重控除制度」「プリンシパル・ハブ優遇措置」「低開発地域に対する優遇措置」(下記詳細記載)がある。
東南アジア各国が外資系による投資に対し優遇措置を設けているが、環境基準や各種規制関連等自国企業よりも高いハードルを設けまた、地元企業の一定割合の資本算入を条件とする等ある程度の「制限」を設定しているケースが多い。マレーシアの優遇措置の特徴は国家戦略物資の対象となっている業種(製造業等)において一定の要件を満たせば外資系100%企業も優遇の対象となっていることである。製紙産業も政府の指定する特定強化業種に明記されておりその優遇を受ける事ができるようだ。
マレ―シアは国王を元首とする立憲君主制の連邦国家で、13の州と三つの連邦直轄区から成る。国土面積は約33万平方㎞(日本の0.9倍)で人口は約3100万人(マレー系68%/中華系24%/インド系7%/その他1%の他民族国家)。主要産業は電気・電子産業を中心とする製造業、天然ゴム、パーム油、木材を中心とする農林業、原油、液化ガスを中心とする鉱業となっている。
1970年代から積極的に外資を誘致し急激に成長してきた。GDPは2,962憶ドル(日本の7.2%程度)で毎年4-5%前後の成長率。一人当たりの名目GDPは11,000ドルとなっておりASEANの中ではシンガポール、ブルネイに次いで高水準で中間所得層も増加している。元々人口が少なく外資系の進出により発展してきた為外国人労働者への依存率が高いが、近年マレー人を一定人数雇用することを義務付ける等、現地人の雇用促進と地位向上を政策的に行っている。