■ アジア古紙市況 欧州景気失速の影響徐々に
2022年6月29日
現在の日米欧州古紙相場はそれぞれ異なる市況感となっている。 日本の古紙は一時127円付近まで戻した為替相場も再び136円まで円安が進んだことで、円ベースの古紙輸出価格は強含んでいるが、海外からの引き合いは決して強いとは言えない状況だ。 中国の都市封鎖解除に向け包装需要が回復する事が期待されていたが、予想以上に中国国内の経済状況は悪く大手製紙各社は停機・休転を発表した。 秋需に向け在庫を減らし、価格を回復させる狙いもあると思われる。 中国需要の減退がアジア全体の段原紙輸出価格を押し下げた事でベトナム製紙企業の古紙の購買意欲は弱まっている様に感じる。 欧米向け製品輸出需要の強まりから国内の包装需要は堅調に回復しつつあるが、本来生産過剰である上にこの数年で新規稼働した中華系、日系製紙企業による国内販売強化によりやはりその原紙余剰感は拭えない。 現在のJOCC古紙相場はCIF TAIWAN $250-255(CY 30.0~30.5/kg) CIF VIETNAM $270-285(CY29.5~30.0/kg)とでのオファーとなっている。 円安が円貨価格の上昇に大きく寄与した形だが、ベトナムは販売先によって価格の幅が開き始めており、一部高値契約のキャンセルも出ているとの話しだ。
高インフレが原因で欧州の消費が減退し、景気が悪化している事もアジアへの古紙相場に影響を与えつつある。 22年のユーロ圏の消費者物価指数は、6.9%と高インフレ状態で消費・経済活動が鈍化。 欧州全体の段原紙在庫量は約90万㌧と前年同期の70万㌧から27%も増加した。 ドイツ・イギリスでは3か月連続の値上げにより原紙価格は1.5倍以上に高騰したが、7月からウクライナ戦争勃発後初めての値下げが実施される予定だ。さらにイギリス大手製紙企業は1週間以上の休転計画を発表し、予想以上に消費が落ち込んでいる事が伺える。 近年段原紙の増産が進み、欧州古紙を多く輸入しているトルコにおいてはより深刻な状況だ。 トルコ政府は景気刺激対策として大幅な利下げを実施した。 それによりトルコリラが大暴落し消費者物価指数が昨年対比70%とハイパーインフレを招く結果となった。ウクライナ戦争による原燃料価格の高騰と急激な通貨安が重なり、電車やバスの運賃などが105%、食料品が89%と生活必需品が2倍近くにまで高騰している。昨年9月時点の対ユーロ建てトルコリラは約9.8であったが、現在はその2倍の18.2TRYまでリラ安が進んでいる。 市民は生活必需品を購入する事がやっとで消費が極端に落ち込み、スナック菓子や本など嗜好品は全く売れない状況となっている。 昨年600€で輸入されていた上質書籍用紙は現在1150~1200€と値上がりしている上に、通貨安を考慮すると371%も価格が上昇した事となる。 売れ行き好調なベストセラー書籍に於いても、古紙、原紙、薬品、インク、製本用接着剤等出版に必要なすべてを欧州からの輸入に頼っているトルコでは、一旦売り切れると再出版ができない状況にあるという。
イギリスの休転やトルコの消費減退を背景に欧州古紙サプライヤーはインド・東南アジア向け古紙輸出オファーを強めているが、一番の購入先であるインドの購買意欲が弱く価格が軟化している。インドに於いてもインフレは進んでおり、消費者物価指数は7.79%に達した。インド政府は6月8日、政策金利を0.5%引き上げて4.9%にすると発表。5月の臨時政策会合に続き2ヶ月連続の利上げで、引き上げ幅は0.9%に達している。さらにインドからの中国向け段原紙輸出需要も減退しており、洋上を航海中の欧州古紙契約をキャンセルするメーカーもでているそうだ。行先の細った欧州古紙はベトナムなどにオファーが集中し95/5 UKOCCで CIF VIETNAM $250-270と月初から10㌦前後軟化した。 一方北米のサマーバケーションや東南アジアの梅雨入りによるローカル古紙回収量が減少に備え、AOCCの価格は若干上昇した。一部の中華系東南アジア再生パルプ工場が、秋需に備え古紙を積み増す動きをしている事も影響している様だ。 現在のAOCC#11相場はCIF ASIA $265-290と先月末から10㌦前後価格が強含んでいる。