■ アジア古紙市況 2022年8月
2022年7月29日
古紙輸出価格が大きく軟化した。欧州古紙の下落を皮切りに、台湾大手製紙企業の倉庫荷崩れ事故や中国段原紙需要が思うほど回復しないなど複数の要因が重なった事で、日本の古紙価格も大きく値を崩す事となった。 欧州古紙は200㌦を下回る水準まで軟化しており、割高となった日本古紙へのオファーは弱い。 為替相場が大きく円安に振れた事で、国際相場の下落を感じにくい環境になってはいるが、海外市況は予想よりも悪い状況だ。
欧州古紙価格の下落はロシアによるウクライナ侵攻によって天然ガスなど原燃料価格が高騰し、インフレが急激に進んだ事で消費が減退した事が要因となった。 7月におけるEUのインフレ率は前年度比8.6%と大幅に上昇、消費者が支出を抑制した事が背景にある様だ。 3月のウクライナ侵攻後、欧州では数度にわたり原紙の値上げが発表されたが、7月は包装材の消費減退から戦争勃発後初めて値下げがアナウンスされている。 またロシアが定期点検と称ノードストロームによるガス供給を停止した事でさらにガス不足が深刻化した。 政府が一般家庭向けとインフラ用途を優先し、製紙用途を制限した事でドイツやオーストリアでは各社休転を余儀なくされている。
さらに英国では6月17日に大手製紙Smurfit Kappa社英国工場に於いて大規模な火災が発生し古紙が余剰していた。 そこへドイツなど欧州域内輸出先の製紙休転が重なった事で、UKOCCの輸出価格は5月末のFOB 170£ ($212.5)から140£($168)と二割以上下落した形だ。 火事と消費減退によって余剰した英国古紙はインドにも安値オファーされ、インドバイヤーが高値契約した過去の契約をキャンセルした事で欧州古紙価格の軟化は東南アジアへ波及する事となった。 すでに船積みされていた欧州古紙は行き場を失い、タイやベトナムへ転売オファーが掛けられたが、すぐに買手がつかず日を追うごとに値を崩した。 6月上旬に270~280㌦程だったEOCCも7月中旬には200㌦を割り込む価格まで軟化。 東南アジアメーカーは中国都市封鎖の影響で原紙引き合いが少なく、地元回収古紙も220㌦以下と安価であった為欧州古紙を無理に買う必要はなかった様だ。 また6月下旬に台湾正隆社自動倉庫に於いて荷崩れが発生し、修理に1カ月~1カ月半を要する事となったため、急遽荷止め実施した。 正隆の古紙購買見合わせを受け、栄成紙業や永豐餘など他台湾製紙も購買をストップした。 原燃料価格の高騰で収益を圧迫されていた上に、中国からの原紙引き合いが弱く、高すぎる古紙価格を抑制する動きが強まった。 日本からの輸出量の3割を占めた台湾向けが止まった事と、欧州古紙に引きずられベトナム向け価格も軟化した事で日本からの輸出価格も軟化した。
段古紙輸出価格は6月中旬にJOCC CIF VIENAM $280-285㌦、CIF TAIWAN 250-255㌦、円安も重なりCY30円以上の価格まで上昇していたが、現在の相場はCIF VIETNAM 210-220㌦ CIF TAINWAN 200-210㌦でCY 20.0-21.0円と㌔8-9円以上下落している。輸出の間口が狭まっているため、ドル価以上に商社の円貨ベース購入価格が大きく値下がりした。
中国の段原紙需要の減退は東南アジアの原紙、ひいては古紙価格軟化の要因の一つとなっているが、都市封鎖が解除された今も先行き不透明な状態が続いている。 一部のエリアで感染の再拡大も見られ、部分的な移動制限が再度敷かれるなど需要は回復しておらず、原紙価格は軟化傾向だ。 これを受け7月10日以降、中国製紙企業は国内の古紙購買価格を相次いで軟化させた。 段古紙価格の値下げは複数回中国全土でみられ、10日間で約200元近い値崩れとなった。 今年旧正月前から始まった製紙各社の休転の効果むなしく、段原紙需給は非常に悪い状態だ。
例年9月以降中国は需要期に入り、10月初旬には国慶節の連休も控える。 市場には今年も例年通り秋需によって9月頃に古紙価格が回復するのではとの期待感もあるが、この時期に原紙価格が崩れる事は過去あまりなかった。 昨今の経済事情を鑑みて今年の秋需はまだ見通せない状況となっている。