■ 米中貿易戦争で中国景気に失速感。製紙は年末に向け日本古紙買い付け強化
2018年9月30日
昨月末の関東組合発表後さらに古紙価格は高騰しJOCC$310を超える相場まで上昇した。9月中旬以降国慶節間に若干の調整局面となっており、現在は$290-300位で推移している。
発表された中国の通関統計では1月から7月までの古紙累積輸入量は853万トン、前年同期比で50%減少、ライセンス発行総量約1,490万トンに対し57%程度の消費となっている。米国古紙は中国政府の対米報復関税により8月23日より25%の関税が課され米国古紙の輸入が難しくなったこと、及び米国品は船足が長く9月中旬以降の船積みは年内の輸入通関が不可能なことから日本古紙に買いが集中した。
しかし、中国国内の需要は米トランプ政権との貿易戦争の影響を受けかなり冷え込んできており、さらに「独身の日」の需要を見越し夏ごろに輸入されたヨーロッパ品原紙が段ボールメーカーに在庫されている。 また中国のエコノミストによると今年3回目になる「独身の日」セールはすでに中国国民から飽きられており、これ以上の成長は望めないという見解もある。
中国経済は対外貿易、内需にも陰りが見えはじめ、世界の景気をけん引してきた中国の失速は世界的な不況を招く恐れもあるのではないだろうか。
段ボール原紙需要は秋需全盛期にかかわらず非常に弱く価格こそ古紙不足による需給タイト感により維持されているが、ローカル古紙はピーク時500ドル越えの価格が地域によっては400ドルを切る水準まで下落してきている。そんな中日本品に高値を付けているのは輸入ライセンス残を年内に消化しなければならない大手製紙数社(玖龍、山鷹等)であり、その他メーカーはさほど高い価格はつけていない。
しかし各商社(日系、中華系問わず)古紙輸出取扱量を減らす一方で、日本からの輸出量は6-7月と2か月連続40万トンを上回り前年よりも輸出量は増えているのが現状だ。この矛盾した数字は美国中南米社(玖龍社)を含む中華系製紙メーカーの直接買い付け数量が大幅に増えていることを示しており、日本の輸出量の6割以上を中南を始めとする中華系大手製紙の直接買い付けが占めているのではないだろうか。
この大手数社のマーケットシェアの増加に伴い彼らの価格が、マーケット価格指標、プライスリーダーとなっているのが現状だが、一方東南アジアは各国廃棄物原料の規制の動きを見せており本船ブッキングもままならない状況で、中国向け以外は非常に売りづらい環境になっている。
上記中国大手製紙がつける価格以外は高くても$240-260程度のもとなっており、ある意味独占的価格かつ、需給の伴わないライセンス消費ニーズによる価格の急高騰は急な下落の危険性を孕んだ非常に危険な相場ではないだろうか。
300ドル近い過剰な価格相場は過去数年を見てもリーマンショック前や、記憶に新しい2016年のAPP社キャンセル事件の直前相場に近いが、いずれも直後10円を超える大暴落を見せている。気になるライセンスの残も8月末時点ですでに1,100万トンほど輸入されており、すでに契約済み、洋上にあるものを含めるとかなり少なくなってきているという話も聞こえる。
9月20日に20回目のライセンス発表があり山鷹社も追加の15万tを取得したが、その前日にライセンス枠を使い切った為しばらく買い付けを鈍化させるという知らせが入ったばかりだった。
今後追加のライセンス発行がなされ年内その間は価格を維持する可能性はあるが、年内のライセンス枠を消費するには11月30日から遅くとも12月10日までに到着をしなければならず、それ以後の需要は見込めない。 年明け後のライセンス発行数量と休正月の不需要期様々な要因が関係してくるが、中期的に価格を維持できる要素は少ないと思われる。
ライセンスの締め付け、米中貿易戦争、古紙の資材調達に逆風が吹く中、玖龍社は今年、3工場で年産106万トンの米国のパルプ生産工場を買収している。2016年の北米のパルプ生産実績では、1位はカナダのドムターで生産量は189万トン。僅差で2位は米国のインターナショナルペーパー社187万トン。玖龍社は今回米国の工場を買収して106万トンの生産設備となり、第7位のパルプ生産能力を有するメーカーとなった。
中国国内での製紙産業とその生産量、古紙の回収量を考えると2020年の古紙輸入禁止は実際に完遂されるのか疑念が残るが、中国共産党に太いパイプをもつ同社のパルプ会社買収等動向をみると古紙輸入禁止は実行される見込みが強いのではないだろうか。また中国の製紙メーカーが古紙の調達がさらに困難になった場合、古紙への木材パルプの代替需要が引き起こされ、木材パルプなどの原材料の価格はさらに上昇すると予想される。
今後の古紙価格の変動に寄与する要素は、
①11月の中間選挙後のトランプ政権の対中関税政策継続
②年末までの追加ライセンス発行、2019年の発行数量
③東南アジアの廃棄物原料政策
中期的要素として
①中国の国内古紙回収率
②製紙の生産拠点の脱中国、生産シフト
③米中の貿易戦争に伴う世界景気
④中国が米国国際の売却に踏み切ることによる大幅な円高移行
が影響してくるのではないかと思う。
余談だが9月10日アリババ社会長、中国のECビジネスを発展させてきたジャックマー氏が突然の引退を表明した。一大事業を築いたカリスマ経営者が第二の人生を歩みたいのか、共産党からの資本注入圧力か、またはこの中国のECビジネスがピークを迎え衰退する前に引退する事を選んだのか様々な憶測を呼んでいる。中国長者番付1位、個人資産250憶ドル(3兆円)とも言われる成功者は引退後教育関係の慈善事業を中心に事業を始めるそうだ。
彼はアリババ社を創設する前英語の教師として働き月1万5千円程度の給料だった。しかし、今よりもはるかに幸せだった。次事業をやるなら上場させず個人事業としてやりたい、大きな責任と使うことのできない大金を手にするよりも、100万ドルのお金を手にしている位の方が幸せだとコメントしている。
彼の引退は成功し中国経済を担う経済界の人間としての責任と苦悩、中国経済、さらには世界経済の先行き不透明感を強く感じたのではないかと憶測してしまう。
今や年収300万円を超える中国の中間層は3億人ほど。数年後には5億人を超えるといわれている。彼はアリババ社が世界の企業が中国で商品の販売のツールになるよう発展させ成長させてきたのだという。しかし米中の貿易戦争は2国間だけならず世界の経済、貿易を停滞させてしまわないかと不安を感じずにはいられない。