■ 2023年2月 アジア古紙市況
2023年1月28日
中国政府が昨年12月にゼロコロナ政策を緩和した事によって、北京や上海など都市部を中心に感染が爆発的に広がった。 既に人口14億人のうち9億人が感染したとも言われるが、4年ぶりの行動制限が伴わない春節期間中に約21億人もの人々が移動するとも報道されている。 各地で医療崩壊が懸念される一方、急速な感染拡大のお陰で早期に集団免疫を獲得し、経済回復が早まるのではないかとの期待も高まっている。 加えて中国政府は昨年12月29日、新たな経済対策として、1,020品目を対象に最恵国関税よりも低い暫定税率を適用する事を発表した。 暫定税率は1月1日から適用される。 対象品目には紙パルプ製品も含まれており、特に段ボール原紙の関税も無税とされた事でアジアの段原紙メーカーの間で中国からの輸入原紙需要が回復するのではないかとの期待感が膨らんだ。 早速東南アジア製紙メーカーからは、旧正月前にも関わらず年明け早々古紙買い付けオファーが来る様になっている。 古紙引き合いを出してきたアジアエージェントに聞くと、中国輸入業者の中には早めに原紙を発注し中国サイドで通関後在庫しておき、需要の回復と同時に販売を開始しようと考えている業者もいるという。 中国では港湾周辺の倉庫賃が安く、2000tを1か月在庫しても保管費用は数万円で済む場所もあり、段原紙需要を先読みし在庫を積み増そうとする動きもある様だ。 またベトナム中小メーカーも古紙輸入ライセンスが更新できた事で、古紙の買い付け意欲は年末よりも強くなっており、やや強めのオファー価格を出しているメーカーもある。
その一方で、米国東海岸の大雪や西海岸の大雨の影響から古紙に含まれる水分率の上昇を懸念する声も聞こえる。 クリスマス前後に米国北部や東海岸を記録的な寒波が襲い、ニューヨーク州エリー郡では1.2mを超える積雪によって、自動車の中に取り残された市民など少なくとも60人以上が死亡した。 さらに西海岸カルフォルニアでは、ハワイ沖の海水温度が例年より数度高かった影響により、年初以来1週間で例年1月に降る降水量の7割の雨が降るほどの大雨となった。ロサンゼルス市街地では住宅が冠水するなどの被害がでており、土砂崩れなどによって寸断された道路もある。 古紙の回収量には大きな影響はなかった様だが、アジアメーカーは水分率を気にして需要増にも関わらず供給元を選ぶ傾向があることから、AOCC価格が先導し全体の古紙価格を押し上げた。 1月のアジア古紙相場はEOCC 5/95 CIF ASIA 140~155㌦ AOCC #11 CIF ASIA $170-180㌦ JOCC CIF TAIWAN 145-150㌦(CY 17.5-18.0)CIF VIETNAM 160-165㌦(CY18.0-18.5)と20㌦前後反転上昇している。
段原紙の引き合いは中国からだけではなくアジアにも及んでいる。親会社である正隆にも中国含むアジア全体から原紙オファーが入ってきているとの話を聞いた。 価格は今のところ大きく変わっていないが、中国の関税が無税となった事で、中国にアジアの原紙が引っ張られるのではないか、価格上昇の危機感から早めに発注しようとするコンバーターもあるとの事だ。 加えて急激な円高から近々日本の原紙価格が値上がりするとの懸念から、数か月分を前倒して頼みたいとの話もあった。 しかし、現在の原紙オファーは「実需」ではなく市場回復への期待感と前倒し需要で、価格上昇にはまだ至っていない。 実際に原紙価格が上がるのは旧正月明けの中国経済如何によるだろう。
アジアメーカーの懸念どおり、円高と原燃料価格の高止まりによって日本からの原紙輸出は採算上厳しい状況が続く。 石炭価格は昨年9月の$430.81/㌧(オーストラリア炭)をピークに現在は380㌦辺りまで軟化したものの、21年初旬は80㌦前後であった上に、ウクライナ戦争直前の22年2月(219.8㌦)と比較してもと高止まりしている。 430㌦の石炭価格に対し、当時の為替相場は140-145㌦で円貨では62円/kg、380㌦の石炭価格は現在の為替(130円/USD)で49.5円/kgと2割近く価格が軟化したが、実際に使用する燃料価格が恩恵を受けるのはもうしばらく先だろう。 加えて化学品等の副資材は値上げが続いている上に、電力料金の値上げはこれからの状況だ。さらにアジア原紙相場は昨年9月時点で中芯CIF 390~400㌦(56-57円/kg)であったが、現在はCIF 340-350㌦(43-44円/kg)と円高と相場の下落により3割以上価格が値下がりした計算となる。 昨年12月以降、国内メーカーは不採算と中国需要の低下を背景に輸出原紙の大幅な減産を行ってきた。 日本の古紙需給は国内製紙が輸出原紙の生産を継続できるかに大きく左右される為、不採算の中、国内メーカーが戦略的な輸出継続ができるか、或いは中国向け原紙価格の上昇やアジア段原紙需給に注意を払う必要がある。